経済発展や企業発展において「裏切り」が有効である理由

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「裏切り」という言葉に良い印象を抱く人は少ないのが現実となります。

しかし、国家や企業という集団の発展において「裏切り」はメリットを与えることも多々あり、単なる道徳論で良い悪いを決めることができない事情が存在します。

少なくとも投資家は陳腐な道徳論のみで物事の善し悪しを語ってはいけません。

日本を高度経済成長に導いた主力産業は自動車。日本を代表する自動車企業と言えばトヨタ自動車 (7203)、本田技研工業 (7267)などが有名ですが、今回は本田技研工業に注目してみましょう。

本田技研工業の創業者は本田宗一郎。


出典 hikarujinzai.hatenablog.com

本田宗一郎は日本が誇る偉人の一人であり、アジア人初となるアメリカの自動車殿堂入りを果たした人物です。

本田技研工業が東証一部に上場するまでの期間、本田宗一郎が尽くした力は決して無視できないものとなります。本田宗一郎が優秀な人物であることは間違いなく、日本の自動車業界発展に貢献した大きな大きな人物です。

ホンダと本田宗一郎を象徴するエピソードは幾多も存在しますが、反韓主義思想の人物がよく引用するコピペで次のようなものがあります。

 

>その昔(1970年代)、本田氏が技術支援の為に台湾と韓国へ技術支援に行った。しばらくして台湾からは「日本と同じものが作れるようになったから、是非見に来てください!」と、韓国からは「日本と同じものが作れるようになりましたから、もう来なくてもいいです。」と連絡が入ったという。そして韓国はホンダとのライセンス契約を一方的に解消してエンジンからデザインまでホンダ製品をコピーしたバイクを「韓国ブランド」として販売を始めたという。
その事実を聞いた本田宗一郎は「韓国とは絶対に関わるな」と叫んだという……

 

これは台湾の親日振りを表すエピソードであると共に、韓国が「信頼できない国」というプロパガンダを行うのによく引用されるコピペです。

実際のところ、ホンダと韓国は密接な関係を維持しており、ホンダは起亜という会社との技術提携を積極的に継続していたのでこのコピペはプロパガンダ以外の何物でもないのですが、私が注目したいのが韓国の行動です。

何度も言うとおりホンダと韓国の結びつきは現在も強く、「ホンダコリア」という連結子会社も存在しているのですが、その事実はあえて忘れましょう。

今回注目したいのが「韓国の判断が本当に悪か?」ということです。

上記のコピペの真意は「韓国がいかに信用できない国か」というものを主張するものです。それはそれで良いのですが、上記の韓国企業の行動を否定することは私にはできません。

なぜならばその行動を否定すると日本という国の否定にも繋がるからです。

上記のコピペをもう一回読みなおして頂きたいのですが、「台湾はホンダの技術支援に感謝し、韓国は裏切った」ということが強く主張されています。

台湾が親日国で、韓国が反日国。その事実は決して間違いではありませんが、その対比として韓国が悪者扱いされるのはおかしいのです。

なぜならば、日本も同じことをしてきたからです。

あなたもご存知の通り、日本はアメリカとの戦争に負けました。

国土がボロボロとなり、産業も乏しかった日本が歩んだ道はアメリカと協力して本土復興を成し遂げるというものでした。まあ、実際には、「逆らえないから協力するという道を歩んだ」という解釈が正しいのです。

日本にはアメリカに刃向かう力なんてなかったのですから。

当時のアメリカの主力産業は自動車産業。アメリカは工業力が非常に高く、デトロイトを中心とした自動車産業はアメリカの誇りでした。


出典 blogs.yahoo.co.jp

1950年代、アメリカは社会主義と対決しており、資本主義国家との仲を親密に保とうと考えていました。その結果行ったのが資本主義国家からの輸出の積極的受け入れであり、アメリカという国が輸出を受け入れてくれたから日本は高度経済成長を成し遂げたという事実は本当です。

日本の高度経済成長の源になったのは自動車産業。

当時、終戦直後の日本の自動車は稚拙でした。(今は高く評価されていますが)

安くて品質が良いということで自動車の販売数を増やしたのは後のことです。

ただでさえ戦争で負け、アメリカの主力産業である自動車に太刀打ちできる能力は敗戦直後の日本にはありませんでした。

何を持って性能が良い悪いを決めるかは微妙なところですが、少なくとも1940年代の技術力ではアメリカの自動車産業に太刀打ちできなかったのです。アメリカや欧州の技術を模倣し、それで技術を伸ばしていったのは有名な話です。

日本が取った政策で注目したいものが一つあります。

それは、「国内市場で国内産業を育てる」というものです。

先ほどアメリカと社会主義国家との対立について語りましたが、アメリカも資本主義国家の一員である日本が成長して欲しかったので「日本の国内産業を育てる」という方針に同意していました。

これはアメリカが日本好きというくだらなく陳腐な理由ではなく、ただ国同士の利害が合ったから許したことです。

日本でアメリカ車が流行らなかった理由をご存知でしょうか?

米国自動車業界は日本への輸出を積極的に行いたいと考えていました。それはシェアを広げて売上高と利益を高めるのに必須となる戦略です。

しかし、国内産業の発展を目的としていた日本はそれを許しませんでした。

結果的に日本が何をしたかと言うと、アメリカ車に高額の税金を課したのです。

つまり、「アメリカ車に乗りたければ乗れば良いよ。その代わりアメリカ車は大型車が中心の贅沢品だから、高い税金を取るね。それが嫌だったら日本車に乗ってね」という政策を取ったのです。

その結果、アメリカ車は一部のマニアやお金持ちにとってブランド価値が高いものとなりましたが、一般大衆へのシェアを確保することができませんでした。アメリカ車に乗るのはお金持ちだけに限られ、一般市民は日本車や日本製のバイクに乗るしかなかったのです。これらは全て日本の政策が原因となります。

一方、日本自動車業界は「小型車を製造する技術しかなかった」ので、日本は国内産業保護のために小型車に対して優遇措置を取りました。欧州車にも小型車は存在しましたが、それらの車は締め出さないとまだまだ未熟な日本自動車業界はまともに戦っても負けてしまいます。

そこで日本が取った行動が「輸入割当制」の導入でした。

輸入割当制とは、簡単に解説すると政府が数量(または価格)面から輸入を一定限度内で割り当てる制度です。日本は国内産業を守る目的で輸入割当制を導入し、外国車を締め出し、日本自動車業界優位の位置を保つ努力をしていたのです。

今でこそ高品質で安いと謳われている日本車ですが、当時はそんなことは全くありませんでした。むしろ欧州車やアメリカ車に太刀打ちできない技術力しかなかったのです。

ここでよく勘違いされる人が多いのではっきりと申し上げますが、別に最初から日本車の質が高いわけではなかったのです。むしろ品質が他国と比べて勝てないから「外国車に対して高額の税金を課したり、輸入割当制を導入したりした」のです。

本当に品質や値段だけで勝てるのであれば、外国車に高額の税金を課したり輸入割当制を導入したりする必要なんてありませんからね。

日本の自動車業界は国内産業保護政策に守られた結果、消費者に車を販売して技術改良を続けて品質を高め続けました。最初は先進国に太刀打ちできなかった自動車業界ですが、国内産業保護政策によって少しずつ力を蓄え、今では「メイド・イン・ジャパン」と呼ばれる独自ブランドを築くまでに成長したのです。

発展途上国は大なり小なりこういうことをして経済を成長させてきたのです。

ドイツやアメリカも19世紀に同じようなことをしたのですが、日本は狡猾極まりない戦略を取って成功を収めたのです。(それが良いか悪いかと評価するのは人によって異なります。ちなみに私はこの件に関して暫定的な立場を取っています)

当初、日本の自動車産業はアメリカや欧州に勝てるだけの技術力がなかった。だから国内産業保護政策を通じて守られ、業界発展の礎を築いたというのが正直なところです。

これは言い換えれば、「稚拙な商品を国内産業保護という名の下に消費者に買わせた」ということになります。

日本の自動車業界の努力も素晴らしかったのですが、商品改良に力を尽くしたトヨタやホンダといった会社はアメリカでも高く評価される「日本車」を販売しています。安くて品質が良い、日本製ならではのコンパクトな形状はアメリカでもある程度の人気を誇ります。

アメリカから見たら飼い犬に手を噛まれた気分でしょう。

自分達が社会主義国家と対立していたために日本の国内産業保護政策を譲歩し、結果的にアメリカ車が日本国内であまり売れず、1980年代には日本車の輸入によってアメリカ自動車産業が壊滅的な打撃を被ったのですから。(その件に関して反日感情が高まり、日本製乗用車をハンマーで叩き潰すジャパン・バッシングも発生しました)


出典 www.47news.jp

日本は全く悪くありません。

こういう事情を招いたのもアメリカの責任です。

当時アメリカと対立していた社会主義国家が脅威だったから、資本主義の味方である日本の国内産業保護政策を黙認したのです。

日本はアメリカの対外事情につけこんで発展を遂げたわけですが(と書くと言い方が少し悪いかもしれません)、弱者の立場である発展途上国なんて少なからずそういうことをしなければ勝てるわけがないのです。

話を韓国に戻しましょう。

日本はアメリカの国内事情につけこんで発展を遂げました。どの国も自国の利益を第一に考えるのは当然のことであり、その戦略が悪いと断言する理由は何一つないのです。

先ほど張ったコピペも、「日本の自動車生産技術を得た韓国が裏切った」という意味になりますが、日本も大なり小なり「自国商品の優遇措置政策」を取っていたので、自国の利益、自社の利益優先として行った自国優先主義政策は本質的に何も変わらないのですね。(しかも日本も技術先進国のアメリカや欧州の技術をパクっていましたし)

日本が行ったアメリカに対する裏切り。いえ、それは裏切りというには言葉が悪すぎるかもしれませんが、結果的には裏切りと言い換えることもできます。

歴史は繰り返すという言葉がある通り、日本もそれで痛い目に合いました。

それは中国への進出です。


中国の魅力は広大な領土と安く使用できる人材です。多くの企業が中国の安い生産コストに魅力を感じ、中国進出を成し遂げました。

その結果ズタボロになって中国撤退を考える日本企業が続出しています。

ソース 中国撤退に苦しむ日本企業 行きはヨイヨイ帰りはコワイ

これは実際にあった例なのですが、つまようじを生産している日本企業が中国の現地生産による生産コストに魅力を感じ、中国本土に工場を建てて中国でのつまようじ現地生産を行うことを決断しました。

その結果どうなったかと言うと、中国に生産拠点を置いたお陰でつまようじの生産技術が盗まれ、中国人による独立を遂げられて裏切られました。

今はその企業は中国を信頼しておらず、日本国内で生産するという戦略を取っていますが、結局のところ生産技術を流出したくなければ他国だけに生産拠点を構えるのは絶対に行ってはいけないのです。

これは中国が悪でしょうか?

私はそうは思いません。

何度も言うとおり、ビジネスで重視しなければいけないのは自社の利益です。そもそも日本企業が中国に進出したのも中国が大好きだからとか、中国が仲良くしたいからという陳腐な理由ではありません。

ビジネス上メリットが大きかったから中国に進出しただけです。(中国は人件費が安いから商品生産に向いているなど)

ビジネス上の関係構築の基本は利益です。自社の利益を最大限に重視するのが普通であり、中国が取った「裏切り」も極めて普通のことであるのです。

中国からしたら嬉しくて仕方ないでしょう。優れた日本の生産技術を仕入れることができ、技術を確保したら独立して同じような商品をより安く生産すれば良いだけの話ですから。

そんなことをされてしまう日本企業もつめの甘さが目立ったというだけの話です。

中国だけを批判することはできません。

結果的に中国は先進国の技術を積極的に取り入れてGDPの向上を成し遂げました。今は日本のGDPを抜き、世界第二位のGDP国家として君臨していますが、そうできた理由も「自国の利益を最大限に優先した結果」です。

高度経済成長期の日本と本質的にやっていることは変わらないのですね

何度も言うとおり、日本企業が中国に進出したのも「日本企業の勝手な事情」です。中国が経済発展を遂げて欲しいとか、中国で雇用を作りたいという名目はかなり優先順位は低いです。

一番に優先したのは「自社の利益を高めるため」です。

それで良いのです。正しい優先順位のつけ方です。

その結果手痛い裏切りを食らった日本企業が続出しているのですが、それも仕方ないでしょう。裏切られるリスクを受け入れた上で中国進出を決断したのですから。

これは中国に限った話ではなく、タイ、ベトナム、カンボジア、フィリピンなどでもありうることです(これらの国は親日だから安心という意見もありますが、本質的に国は自国の利益を一番に重視することを忘れてはいけません)。

むしろこれくらいの狡猾さがなければ発展途上国から先進国へ成り上がるのは難しいと思っています。純情なままだとただの「食い物」にされてオシマイですから。

例えば中国企業が技術を奪って独立しなければ中国はずっと「日本の生産拠点」として利用されたままです。

別にそれで良いのであれば構いませんが、より高度な発展を遂げたいのであれば独立できるときに独立すべきです。そういう意味で中国人のビジネスメンタリティは素晴らしく、日本は中国人のメンタリティに負けたというだけの話です。

日本ではベンチャーマインドを抱いている経営者が高く評価されます。

ベンチャーマインドは成長する意気込み。つまりベンチャーマインドが強い経営者ほど「成長する意欲が高い」ということになりますが、良い意味で使用されるベンチャーマインドも結局は独立精神旺盛という意味に近いのですよ。

仕事を与えられ、仕事を普通にこなしている人間のことを「ベンチャーマインドがある」とは言いません。ベンチャーマインドは新たなことに挑戦し、大きな発展を遂げる意欲があるという意味で使用されます。

先ほど中国の例を挙げましたが、中国がGDP二位を確保する経済大国に成長したのも日本人が好んで使用する「ベンチャーマインド」があったからです。

日本企業の優れた技術を盗み、自分達のものにして独立する。これもベンチャーマインドそのものでしょう。結果的に日本は中国のベンチャーマインドに負けたというだけの話です。

一つの見方をすれば中国は裏切った。

もう一つの見方をすれば、中国は独立精神旺盛だから成功できた。ということになります。

どのような生き方が正しいのかは置いといて、経済合理性を追求するのであれば「食い物にされたまま終わるのではなく、独立する」のが正しいでしょう。中国だって日本企業の生産拠点として利用されたままだったら、「利用されたまま終わり」という結末を迎えるだけです。

独立精神と裏切りは紙一重。

日本では勤めていた会社を辞め、新たに独立する人を「裏切り者」だと非難する傾向も少なくありません。その非難も結局は自分達の都合しか考えていない一方的なものであるのですが、そこを理解しないで独立する者を非難しているだけの企業には未来がないのです。


「信義を守ることを気にしなかった君主のほうが、偉大な事業を成している」

上記の名言は政治思想家であったニコロ・マキアヴェッリが残したものです。

この名言は現代ビジネスでも通用します。

実際に中国は日本企業に対する信義を守らないで発展を収めましたし(まあ、そもそも日本企業の中国進出も自社の利益を一番に重視したものなので、そんな信義守る必要もないのですが)、日本も過去に自国の優遇措置政策を取ってアメリカを出し抜いたので中国・韓国を非難するのも筋違いなのですね。(むしろ中国の経済行動を非難したところで負け犬の遠吠えにしかならない)

信義を守ることが必ずしも良いことだとは限りません。

むしろチャンスがあったらどんどん挑戦し、既存の関係や発想にとらわれないで新たな利益確保を目標とする。投資家はそういう企業や経営者に投資した方が、結果的に大きな利益を得る可能性が高くなるのです。

現代主流となっている道徳論や信義というものは、結果的に足枷になることも少なくありません。

そもそもその「信義を守れ」という意見も、強者の勝手な押し付けに過ぎないパターンも多いのですから。

守る必要もないくだらない道徳論にとらわれず、自社の利益や自社の発展を優先できる経営者ほど本当に優秀な経営者です。それは歴史が証明しており、国家や企業という枠組みでも正しいと証明されているのです。


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